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東京地方裁判所 平成6年(ワ)24472号 判決 1999年8月31日

原告

北川公造外二名

右三名訴訟代理人弁護士

中村雅人

澤藤統一郎

近藤博徳

村上徹

中山ひとみ

中村忠史

森山満

芳野直子

米川長平

田島純藏

神山美智子

瀬戸和宏

高見澤重昭

大西正一郎

奥田克彦

谷合周三

右中村雅人訴訟復代理人弁護士

高木佐基子

右田島純藏訴訟復代理人弁護士

吉岡俊治

被告

三洋電機株式会社

右代表者代表取締役

杉本政穂

右訴訟代理人弁護士

八木忠則

須藤修

遠山康

上床竜司

主文

一  被告は、原告北川公造に対し、三一三万一〇四四円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告北川丈子に対し、二九五万九三五七円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告北川優子に対し、二九三万二〇九九円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告北川公造に対し、一九五一万三七五〇円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告北川丈子に対し、八九一万三七五〇円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告北川優子に対し、四四〇万円及びこれに対し平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  仮執行宣言

第二  事案の概要

一  本件は、被告が製造販売した業務用冷凍庫から発火し、店舗兼居宅が半焼したと主張して、原告らが、被告に対して損害賠償を求めている事案である。

二  原告北川公造(以下「原告公造」という。)、同北川丈子(以下「原告丈子」という。)及び同北川優子(以下「原告優子」という。)は、原告公造が福島県いわき市内において経営していた飲食店「レストラン味郷」において平成三年七月一日に発生した火災(以下「本件火災」という。)の発生源が、業務用冷凍庫であるとして、被告に対し、安全な電気器具製品を設計、製造すべき注意義務違反による不法行為に基づき、店舗内備品、家財道具等の焼失、休業損害、新住居兼店舗への移転費用等、慰謝料、弁護士費用の各損害につき、原告公造について一九五一万三七五〇円、同丈子について八九一万三七五〇円、同優子について四四〇万円の各損害賠償及びこれらの各金員に対する不法行為の日である平成三年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求している。

第三  争いのない事実等(証拠により認定した事実には、証拠番号を付す)。

一  当事者

1  原告公造は、昭和六一年一一月、福島県いわき市三和町下市萱字竹ノ内<番地略>所在の土地約350.40平方メートルを賃借し、同土地上の建物(木造モルタルスレート葦二階建、延床面積約110.13平方メートル)を代金八〇〇万円で購入した。同人は、この建物の北側に下屋を増築した(増築後の建物を以下「本件建物」という。)後、同年一二月から、本件建物の一階部分で、妻である原告丈子とともに、飲食店「レストラン味郷」(以下「本件レストラン」という。)を経営していた。原告優子は、原告公造、同丈子夫婦の二女である。

2  被告は、電気機械器具等の製造等を目的とする株式会社であり、業務用冷凍庫(型番SCR―C二八〇、以下「本件冷凍庫」という。)を製造し、これを販売のため出荷した。

二  本件冷凍庫の設置、使用状況等

1  原告公造は、昭和六一年一二月、株式会社服部コーヒー・フーズから、本件冷凍庫を購入し、本件建物の下屋に設置して、本件レストランの営業のために、食材の冷凍保存の用途で使用していた。

2  本件建物は、一階部分が店舗及び下屋で、二階部分が原告らの居住部分である。一階は、西側に一般客席(テーブル席)があり、その東側にカウンターと厨房がある。厨房の南側に個室一部屋があり、厨房の食器戸棚の東側裏面に接する形で下屋がある。下屋には、北側に風呂場、戸棚があり、東側に面する部分が通路となっており、厨房に接して北側からボイラー室、冷凍庫置場、物置がある(いわき中央警察署司法警察員五十嵐了作成の実況見分調書である甲九、以下「警察調書(甲九)」ともいう。)。

3  本件冷凍庫は、下屋(天井は梁がむき出しのまま、床は土間)の中の幅1.65メートル、奥行0.72メートルの大きさの冷凍庫置場に置かれていた。冷凍庫置場は、三方を板壁で囲まれており、本件冷凍庫は、西側のボイラー室との間にある板壁と接して、南側の厨房との境にある板壁(以下「本件板壁」という。)から7.3ないし一二センチメートル離して、コンクリートたたきの上に置かれていた。本件冷凍庫の東側には、ビールケースが二段重ねにして置かれていた(いわき市内郷消防署三和分遺所消防司令補熊谷信夫作成の実況見分調書である甲三、以下「消防調書(甲三)」ともいう。甲九、原告公造本人尋問の結果)。

4  本件冷凍庫置場背面の本件板壁は、その表面に近い部分から奥に、腰板、前壁板、前貫板、間柱、後貫板、後壁板という構造となっており、表面の腰板はベニア板で、床面から四〇センチメートル程度の高さまで張られていた(甲三、乙九七の一ないし三、九八の一及び二、一〇〇の一及び二)。

三  本件冷凍庫の形状等

1  本件冷凍庫は、冷凍スペースである本体部分と上扉からなり、本体、部分は、外箱と内箱とで構成され、外形寸法幅一〇八四ミリメートル、奥行五七七ミリメートル、高さ八六五ミリメートル、内形寸法幅九五〇ミリメートル、奥行四四〇ミリメートル、高さ七一五ミリメートルのものである(乙九五の一)。

本件冷凍庫の上扉は、引上げ式となっており、扉内側中央部分には庫内灯が付属されている(乙四)。外箱と内箱との間に、冷却用物質を通す螺旋型の鋼製パイプが取り付けられている。

本件冷凍庫の外箱の材質は、NX鋼板であり、その上にポリエステル樹脂焼付塗装(PCM)が施されている。上扉本体の材質は、NX鋼板であり、同様にポリエステル樹脂焼付塗装(PCM)が施された上、ABS樹脂の扉キャップが縁枠として使用されている。扉パッキングの材質は、塩化ビニールである。内箱の材質は、カラーアルミニウムである。

2  本件冷凍庫には、外箱と内箱との間に断熱材として、硬質ウレタンフォーム(以下「本件ウレタン材」という。)が発泡剤CFC―一一を使用して充填されており、前者は、可燃性である(以上乙九五の一、一一七、弁論の全趣旨)。

本件ウレタン材の漏れ防止のためには、アタクチックポリプロピレンを主成分とするホットメルト型シール材(以下「ホットメルト」という。)が使用されている。

3  本件冷凍庫前面左下には、サーモエスカッション(制御・表示盤)がある。このサーモエスカッションの材質は、ABS樹脂であり、外箱には、爪によって固定する方法(嵌め込み式)で取り付けられている。サーモエスカッションには、右から、冷凍庫に入れた食品を急速に冷凍する場合に入れる急速スイッチ(急冷ランプ内蔵)、冷凍庫内が通電状態であることを示す通電ランプがあり、一番左には温度調節ツマミがある。

4  これらのスイッチ等の後部には、冷凍庫内の温度が高くなりすぎた時に、冷凍庫内の温度を感知して警告ランプを点灯させる警告サーモと、冷凍庫内の温度を一定に保つ働きをするサーモスタット(温度調節器、以下「本件サーモスタット」という。)がある。本件サーモスタットのサーモエスカッションへの取付方法は、ビス止めであり、その端子台の材質は、ポリエステル樹脂である。急冷スイッチのサーモエスカッションへの取付方法は、嵌め込み式であって、その樹脂の部分の材質は、ガラス繊維強化ナイロン6樹脂である。

5  サーモエスカッションの後部には、コンプレッサ(外側が鉄製ケースで覆われ、ケースの側面に電気の供給のための端子を備えているもの)があり、電源コードとコンプレッサの間には、コンプレッサに異常が生じたときに温度が異常に上昇しないように電気の供給を停止し、コンプレッサを保護する役目をする過負荷リレー(以下「本件過負荷リレー」という。)とコンプレッサの始動時のみ起動する始動リレー(以下「本件始動リレー」という。)がある(乙一七の一)。

6  本件冷凍庫背面左下には、縦二四センチメートル、横19.8センチメートルの大きさの排熱口がある(乙八八の一及び二)。

四  本件火災の発生、消火

1  平成三年七月一日午後八時四七分、森田愛子の夫の通報により本件火災の発生が、いわき中央警察署に認知され、同日午後九時四八分、いわき市内郷消防署により消火された(甲九)。

2  本件火災により、本件建物は、延べ床面積124.74平方メートルのうち24.15平方メートルを半焼した(甲二)。

五  火災保険金等の支払(甲一二、乙八の一及び二、九の一及び二、五六、五七の一及び二、五八、原告公造の本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨)

1  原告公造は、昭和六一年一二月二七日、大成火災海上保険株式会社(以下「大成火災」という。)との間で、本件建物を目的とする保険金額一〇〇〇万円の損害保険契約を締結し、本件火災の後、保険金一〇〇〇万円及び取り片付け費用保険金五〇万円、臨時費用保険金三〇〇万円の合計一三五〇万円を受領した。

2  原告公造は、昭和六一年一二月三日、福島県共済農業協同組合連合会(以下「福島農協」という。)との間で、本件建物を目的とする共済金一五〇〇万円の共済契約を締結し、本件火災の後、共済金一五〇〇万円、営業用什器についての動産特約共済金五〇〇万円、臨時費用共済金一五六万二五〇〇円、特別費用共済金一五〇万円の合計二三〇六万二五〇〇円を受領した。

3  原告公造は、昭和六二年五月二二日、福島農協との間で、家財道具一式を目的とする共済金五〇〇万円の共済契約を締結し、本件火災の後、共済金五〇〇万円、臨時費用共済金九三万七五〇〇円、特別費用共済金五〇万円の合計六四三万七五〇〇円を受領した。

第四  争点

一  本件冷凍庫の欠陥の有無

二  被告の過失の有無

三  原告らの損害の有無及びそれらの額

第五  争点に関する主張

一  本件冷凍庫の欠陥の有無

1  原告らの主張

(一) 本件火災の発生源は、本件冷凍庫である。本件火災の原因が本件冷凍庫の発火によるものであることは、本件火災現場の状況、とりわけ本件冷凍庫の焼損の状況と本件建物の焼損状況から肯定される。

(二) 原告らは、食材等の冷凍保存という冷凍庫の本来の使用目的に従って使用してきたものであるにもかかわらず、本件冷凍庫が発火し、本件火災の発生源となったのであるから、本件冷凍庫は、本件火災当時、通常有すべき安全性を欠いており、この意味で欠陥があった。

そして、消費者に流通することを予定されている製品で、実際に流通に置かれた時の状態のまま、本来の使用目的に従って使用され、事故が発生した場合において、その時点で製品に欠陥が存在したときには、流通に置かれた時点で既に欠陥が存在していた蓋然性が高い。

本件においても、本件冷凍庫は、食材の冷凍保存という使用目的に従って使用されていたにもかかわらず発火したのであるから、被告により流通に置かれた時点で、既に右欠陥が存在していたといえる。

(三) なお、原告は、本件火災の発生源が本件冷凍庫であったということを立証すれば足り、必ずしも本件冷凍庫の発火箇所、発火機序、燃焼経路について明らかにする必要はないが、最も蓋然性の高い発火原因は、本件サーモスタット部分のトラッキングによる発火である。そして、本件サーモスタットの発火から本件板壁に着火するまでの燃焼経路は、概要次のとおりである。

(1) 第一段階

本件サーモスタットから発生した火災は、ポリエチレン製のカバーフィルムに燃え移り、サーモエスカッション部内の可燃性の構造材(合成樹脂部品等)に延焼するとともに、約四センチメートル上部に近接する鋼板接合部のホットメルトに達して、これを加熱し溶融した。

(2) 第二段階

ホットメルトに到達した火炎が、これを溶融、滴下させ、加熱されて溶融したホットメルトが、いわば流動性の燃料として、サーモエスカッション部に降りかかり、火勢を一層激しくすると同時に、ホットメルトが溶融、滴下した後の鋼板接合部に生じた隙間に露出している本件ウレタン材に着火した。

(3) 第三段階

本件ウレタン材に着火した火炎が、本件冷凍庫の全周囲を取り巻くウレタン材に燃え広がりながら上端に達し、本件冷凍庫上辺部の扉パッキング及び合成樹脂製の縁枠などを焼失させた後、焼失跡に開いた幅約二センチメートルの間隙から外部に向けて噴出した。本件冷凍庫背面で、床面から約八〇センチメートルの高さの上扉部分(以下「本件上扉部分」という。別紙図面のB部分)に生じた間隙から噴出した火炎が、本件冷凍庫の背後約七センチメートルに対向して位置する本件板壁に着火、延焼し、燃え上がった。

2  被告の反論

(一) 本件冷凍庫は、鋼板という不燃性の物質で囲まれた構造であり、鋼板自体が燃焼することはあり得ないから、内部で発火した火によって本件火災が発生したということを立証するためには、①内部で発生した火が外部に噴出した箇所はどこか、②その噴出した火が本件建物のどこに着火したか、という二つの事実を主張立証する必要がある。

(二) 本件火災をもたらした火炎が初めて本件建物に着火した箇所は、本件板壁の最下端にある貫板の中央部の下方の床付近(以下「本件床付近」という。別紙図面のA部分)である。

そして、仮に本件冷凍庫の内部で発火したとしても、その火が本件床付近に着火することは、次の理由からその可能性がないから、結局、本件冷凍庫の内部から発火したということはあり得ない。すなわち、本件冷凍庫の外箱には、内部で発生した火が外部に噴出する可能性のある開口部ないし開口部となりうる箇所は、排熱口、サーモエスカッション、左右の把手、本件上扉部分の五箇所しかない。しかし、右五箇所のいずれからも、火災が噴出した蓋然性は極めて低い。

(1) 排熱口

一般的に、着火した箇所の焼損状況が他に比較して軽微であることは、あり得ないことであるところ、排熱口が面している本件板壁の焼損状況をみると、前壁板ばかりでなく腰板すら残存しており、本件上扉部分に位置が対応する関係にある本件板壁部分で貫板が焼失しているのと比較すると軽微であるから、排熱口を介してコンプレッサーから火災が本件板壁に着火し、またはコンプレッサーから生じた熱が原因で本件板壁が発火したという蓋然性は著しく低い。

(2) サーモエスカッション

サーモエスカッションは、本件冷凍庫の前面に位置するので、ここから火災が噴出しても、その火災が本件板壁に着火する蓋然性は全くない。

(3) 左右の把手

左右の把手の位置からすると、左右の把手部分から噴出した火災が本件床付近に着火する蓋然性が著しく低い。左右の把手が面している本件板壁の焼損状況は、その下に位置する貫板二本など周辺の焼損状況と比較して最も焼損の程度が弱い。この状況は、強力な火勢の火炎が左右の把手部分から噴出した場合にみられる焼損状況とは全く異なるものである。

(4) 本件上扉部分

本件冷凍庫の内部で発火したとして、本件上扉部分から噴出した火炎が本件床付近に着火した蓋然性は極めて低い。

(三) 原告は、発火原因として、サーモスタットのトラッキングによる発火を主張するが、次の理由からこの可能性はない。

(1) 本件サーモスタットは、耐トラッキング性に優れており、本件サーモスタットに使用されているポリエステル樹脂も自己消火性に優れているから、本件サーモスタットが発火原因となることはない。

(2) 本件ウレタン材の燃焼の可能性について

(ア) 本件火災現場において焼損したものの中で、本件冷凍庫の焼損状況がとりわけ著しいが、その焼損の際の燃料は、本件冷凍庫の断熱材として使用されていた本件ウレタン材である。しかし、本件ウレタン材は、本件冷凍庫内部で発生した火ではなく、外部からの火によって燃焼したものである。

(イ) 本件ウレタン材は、硬質ウレタンフォームが膨張して外箱と内箱の間に完全に充填されるため、本件ウレタン材と外箱と内箱は接着した状態となる。したがって、本件冷凍庫の背面板、前面板及び側面板はいずれも外箱と内箱を構成する二枚の金属板がウレタン材をサンドイッチ状に挟んだ三層構造であり、外箱と内箱は、その上端で縁枠に嵌合されている。

(ウ) 以上のように金属板によってサンドイッチ状に挟まれ、さらにその上端を縁枠で密閉された状態の本件ウレタン材は、その気泡中に入れ替わって内包するに至った空気に含まれる酸素の量だけでは不十分であるため、下方から火炎を受けても下部の局部的な焼損に留まる。酸素がない以上、本件ウレタン材が燃焼することは不可能であり、本件ウレタン材は、燃焼したのではなく、結果的に炭化しただけである。

仮に、本件ウレタン材に内包する空気によって燃焼が可能であったとしても、上端が塞がれている状態の下では、燃焼によって生じたガスは、排出されず、本件ウレタン材の収縮によって生じた空気に残留することにならざるを得ないため、酸素濃度が低下し、結局、本件ウレタン材は、燃焼を継続することができない。

したがって、原告が主張するような燃焼経路はあり得ず、本件ウレタン材が燃焼したのは、それを挟んでいる金属板が外部からの火災によって熱せられ、その火炎による被熱によって熱分解し、可燃性ガスとなる一方、外箱と内箱を嵌合させている縁枠が部分的に焼失し、金属板内部の本件ウレタン材から可燃性ガスとなったものに着火したためである。

二  被告の過失に有無

1  原告らの主張

今日の日常生活においては、消費者は、製造者の提供する製品を使用して生活せざるを得ないが、その製品の多くは、高度に複雑化・専門化した科学技術を駆使して製造されているため、製品の構造、材質、作動機序等のいずれについても消費者の理解をはるかに超えており、消費者は、製造者の提供する製品の構造、材質、作動機序等について一切知識を有しないまま、その安全性を信頼し、使用することを余儀なくされている。したがって、製品の構造、材質、作動機序等に関して高度の知識や専門技術を有している製造者は、この消費者の信頼に対応した安全な製品を設計・製造し、流通に置く義務を有する。かかる状況下において、製造者が製造した製品に基づく事故が生じた場合に、消費者がその事故により被った損害の賠償を求めるに際して、製品の事故発生箇所の特定やその発生機序を主張立証することは、著しく困難であって、多くの場合には、事実上不可能を強いるに等しい結果となる。

本件冷凍庫も、右のような科学技術を駆使して製造されたものであり、本件冷凍庫の設計、製造等に関する知識も技術もない原告らにとっては、いわばブラックボックスともいうべきものである。しかるに、本件冷凍庫の発火による本件火災の被害を受けた本件において、本件冷凍庫内の発火箇所、発火機序、燃焼経路等を解明し、それに対する被告の注意義務やその違反の内容についてまで具体的に特定して主張立証しないかぎり、損害賠償請求権を根拠づけられないとすることは、事実上その被害を甘受することを余儀なくされるものであり、許されない。

したがって、本件における被告の過失の内容は、本件冷凍庫を設計、製造し、流通に置く過程で、本件冷凍庫が通常どおり使用されている限り、発火することによって原告らに損害を及ぼすことがないように、その安全性を確保すべき高度の注意義務があったにもかかわらず、かかる義務を怠り、原告らが、通常どおり使用していたのに、発火してしまうという通常有すべき安全性を欠く欠陥のある本件冷凍庫を製造し、流通に置いたことであり、この程度の特定で足りるものである。本件冷凍庫が通常の使用に供している際中に発火したのに、被告に過失がないというためには、被告は、前記のとおり、消費者に対して安全な製品を提供すべき義務を負担し、本件冷凍庫の構造等について高度の専門的知識を有しているのであるから、本件冷凍庫を製造した被告が、具体的な発火原因を解明して過失のなかったことを主張立証すべきである。

2  被告の反論

(一) 原告らは、本件冷凍庫の内部の製造等は全く不明であって、いわばブラックボックスともいうべきであるとして、本件冷凍庫内部の発火箇所、発火機序、焼損経路等に関して具体的事実を主張立証する必要はないとする。

しかしながら、今日、我々が日常生活において使用する家庭用電気器具製品、レジャー用品、乗物ないし乗物用品等は、多かれ少なかれある程度高度の技術、知識がなければ理解できないようなものであるから、原告らの立論によるならば、右のような製品に関連して事故が起きた場合、消費者側は、その事故による損害賠償を請求するために、ブラックボックス的構造の製品を購入したことを主張立証しさえすれば十分ということとなり、製造者側において、過失及び因果関係の不存在を立証しなければ、損害賠償義務を免れ得ないこととなり、不当である。

(二) そもそも、本件冷凍庫は、ハイテクノロジーを駆使した高度な専門技術の結晶というべき製品ではなく、電気に関する通常の技術、知識があれば誰でも理解し得る構造のものであって、原被告間において、本件冷凍庫に関する技術、知識に大きな隔たりがあるとはいえない。しかも、被告は、原告らの釈明に応じて、本件冷凍庫の構造図や回路図を証拠として提出済みであり、本件冷凍庫の構造等についての知識という点では同等である。その上、本件火災は、原告の支配領域内で発生しており、被告の支配領域外の出来事であることをも考慮すれば、訴訟上の公平という観点に照らしても、原告の立論は成り立たない。

三  原告らの損害の有無及びその額

1  原告らの主張

(一) 原告らは、本件火災の結果、次のとおりの損害を被った。

(1) 店舗内備品等の焼失

原告公造につき九六六万円

原告公造は、本件建物内にあった別紙店舗内備品等一覧表のとおりの飲食店用の備品等を本件火災によって全て焼失した。これらの価額は同一覧表の損害額欄記載のとおりであり、合計額は一四六六万円である。原告公造は、店舗内備品の火災保険金(共済金)として五〇〇万円を受領したので、右損害額から右保険金相当額を控除する。

(2) 家財道具等の焼失

原告公造 二二一万三七五〇円

原告丈子 三六一万三七五〇円

原告優子 三〇〇万円

原告らは、別紙家財道具等一覧表のとおりの各動産を焼失し、その価額はそれぞれ同一覧表の損害額覧記載のとおりである。同一覧表の番号1番から3番までの各動産は原告丈子の所有、同4番の動産は原告優子の所有、同5番から34番までの各動産は、原告公造及び同丈子の共有であった。原告公造及び同丈子は、本件火災後、動産の火災保険金(共済金)六四三万七五〇〇円を受領したので、原告公造及び同丈子の動産の損害から右保険金相当額を控除する。したがって、原告公造の損害額は、共有動産の損害額から右保険金相当額を控除した残金四四二万七五〇〇円の二分の一相当額であり、原告丈子の損害額は、同二分の一相当額と右一覧表の番号1番から3番までの各動産の損害額との合計額である。

(3) 新住居兼店舗への移転費用等

原告公造 八四万円

原告公造は、本件火災から約六か月後に、現住所地の建物を住居兼店舗として賃借し、敷金として六四万円(賃料月一六万円の四か月分)、礼金一〇万円、不動産業者への仲介手数料一〇万円の合計八四万円を支払った。

(4) 休業損害

原告公造 三〇〇万円

原告丈子 二五〇万円

原告公造及び同丈子は、本件火災のため、約半年間の休業を余儀なくされ、その間の休業損害は、それぞれ右金額を下らない。

(5) 慰謝料

原告公造 二〇〇万円

原告丈子 二〇〇万円

原告優子 一〇〇万円

原告らは、(ア)ないし(カ)のとおり、本件火災によって、財産的損害の回復だけでは、到底償いきれない精神的苦痛を強いられたから、その慰謝料額はそれぞれ右金額を下回ることはない。

(ア) 写真、アルバム、先代等の遺品、日記、卒業証書など、それぞれに想い出があり又は記念となる品々が全て失われた。

(イ) 本件火災で突然焼け出されて、順調に経営していた飲食店レストラン味郷及び住居を焼失し、五年間かけてようやく獲得した営業上の信用を喪失し、収入の途を失い、生活の基盤を奪われた。

(ウ) 原告らは、火災から約六か月後の平成三年一二月一二日、新店舗の開業にこぎつけたが、店舗も住居も賃借であり、店舗の広さも縮小し、しかも、顧客の獲得等、一からのやり直しである。

(エ) 原告らが、本件火災時に在宅していれば、生命を失う危険があった。

(オ) 原告らは、本件火災後、焼け跡の片付け、住居の手配、店舗探し、新店舗開業準備等の煩雑な事務処理や新たな生活の基盤作りのために、約半年間忙殺され、その後も厳しい生活が続いている。また、賃借した建物を飲食店用に改装するために約一〇〇〇万円の費用を要した。

(カ) 原告らは、本件火災後、警察及び消防の現場検証担当者から、本件冷凍庫が発火したものであるとの説明を受け、直ちに被告と交渉を開始した。しかし、被告は、公的機関の火災原因に関する証明書を要求したり、警察署内で本件冷凍庫を調査済であるのに、調査未了を理由に賠償を拒否し、さらに、見舞金名目での三〇〇万円の支払で解決を図るなど、不誠実な交渉態度に終始した。被告は、このような不誠実な交渉態度により、火災による被害を受けた原告らに対し、さらに精神的な苦痛を与えた。

(6) 弁護士費用

原告公造 一八〇万円

原告丈子 八〇万円

原告優子 四〇万円

右(1)ないし(5)の損害額合計は、原告公造が一七七一万三七五〇円、原告丈子が八一一万三七五〇円、原告優子が四〇〇万円であり、本事件の弁護士費用はその約一〇パーセントに当たる右金額が相当である。

(二) 以上により、損害額は、原告公造が一九五一万三七五〇円、原告丈子が八九一万三七五〇円、原告優子が四四〇万円である。

2  被告の反論

(一) 火災保険金による損害の填補

(1) 原告公造は、大成火災との間で締結した本件建物を保険の目的とする損害保険契約に基づき、損害保険金一〇〇〇万円を、福島農協との間で締結した本件建物を保険の目的とする共済契約に基づき、共済金一五〇〇万円を既に受領している。

(2) このように、原告公造は、本件建物の火災による焼失という一つの保険事故を理由に、二重に損害保険金等を受領している。損害の填補を目的とする損害保険契約等の趣旨に照らせば、保険価額を超過する部分は無効であり、その超過部分を超える金員の受領は不当利得である。本件についてみると、本件建物の価額を高い方の福島農協の評価である一五五一万一一九六円であるとした場合、原告公造は、本件建物につき合計二五〇〇万円を受領しているから、九四八万八八〇四円が不当利得である。原告らが本件火災によって受けた損害については、その不当利得九四八万八八〇四円の受領によって既に填補されている。

(二) 店舗内備品等及び家財道具等の損害

(1) 福島農協は、現場調査の結果及び原告公造の申告に基づいて、店舗内備品等の時価を五一〇万円と算出した。原告公造は、店舗内備品等の焼失により、五一〇万円の損害を被ったが、うち五〇〇万円は共済金により填補されたのであるから、結局、本件火災による店舗内備品等の損害額は一〇万円である。

(2) 福島農協は、家族構成等による標準的評価表に基づいて、家財道具等の時価を九四〇万円と算出した。原告らは、本件建物内にあった家財道具等の焼失により、九四〇万円の損害を被ったが、うち六四三万七五〇〇円は共済金により填補されたのであるから、結局、本件火災による家財道具等の焼失による損害額は、二九六万二五〇〇円である。

(三) 新住居兼店舗への移転費用等

敷金は賃貸借契約の終了の後に返還されるものであるから、敷金の支払をもって、損害が発生したとはいえない。原告公造は、福島農協から、臨時費用共済金一五六万二五〇〇円および特別費用共済金一五〇万円の支払を受けているが、前者は損害に伴って生ずる臨時の出費を担保するもの、また後者は仮住いの費用等に充てるものとされていることから、いずれにせよ、礼金等の損害は既に填補されている。

(四) 休業損害

原告らは、休業損害を立証するために必要な資料を証拠として提出しておらず、立証が不十分である。

(五) 慰謝料

(1) 原告らは、いずれも本件火災の際、本件火災現場に居合せたものでないから、本件火災によって直接精神的苦痛を受けたという関係にはなく、それぞれの所有していた物が焼失したという財産的損害を被ったにすぎない。したがって、財産的損害については、その損害を填補すれば足りる。

(2) 被告の原告らに対する本件に関する交渉態度は何ら非難されるところはない。

原告らは、本件火災発生の翌日に行われた警察署、消防署共同の実況見分において、警察の担当官が本件火災は本件冷凍庫の内部からの発火によると発言したため、本件冷凍庫が火災発生源であると信じ込み、平成三年七月三〇日、警察署から本件冷凍庫の返還を受ける際、科学捜査研究所による鑑定結果について、本件火災の原因は、本件冷凍庫のモーターでない旨を知らされたのにもかかわらず、平成三年八月六日、被告宛に内容証明郵便により損害賠償を請求した。その後、被告は、警察による鑑定結果その他本件火災の原因究明を待ちたい旨を原告らに伝え、本件冷凍庫が原因で本件火災が生じたとの結論に至れば、直ちに賠償請求に応ずる旨を表明していた。被告は、本件火災の原因究明が進まないため、原告らに対し、第三者機関による判断に委ねたい旨を申し入れたが、原告らはこれを拒絶した。被告は、原告公造に対し、損害額を確定すべく損害保険による填補額の開示を求めたが、これも同原告は拒絶した。

このような次第で原被告間の交渉が進展しなかったのであるから、被告の原告らに対する交渉態度につき、何ら非難されるべき点は存しない。したがって、原告らにつき賠償の対象となるような精神的苦痛は生じていない。

第六  当裁判所の判断

一  争点一(本件冷凍庫の欠陥の有無)について

1  判断の順序

本件火災の発生源について、本件冷凍庫それ自体の焼損状況、本件板壁の焼損状況、本件冷凍庫のサーモスタットの可燃部の焼損状況等から、本件冷凍庫であることが推認できるか、本件冷凍庫から発火すること、及びそれが本件板壁に着火することがあり得るか、その他の原因による可能性があるか等について、以下、検討する。そして、その検討結果を踏まえて、本件冷凍庫の欠陥の有無を判断する。なお、対応する被告の反証について、適宜判断を加えることはいうまでもない。

2  本件冷凍庫それ自体の焼損状況

(一) 消防調書(甲三)及び警察調書(甲九)添付の写真並びに乙一二の一五ないし二二によると、本件冷凍庫の焼損状況について、本件冷凍庫の前面は、塗装がほとんど残存しており、サーモエスカッション部が黒く煤けていること、本件冷凍庫の背面は、真ん中の高さから上半分は褐色になっているが、下半分は黒く煤けていること、下半分のうち、左側の三分の一程度と右側の排熱口の部分は特に黒く煤けていること、排熱口は、内部のコンプレッサーが更に黒く焦げ付いたようになっており、排熱口に設けられた網状の枠から配線が飛び出していること、本件冷凍庫背面の鉄板を取り除くと、中に入っていた本件ウレタン材が全面にわたって黒く煤けていること、本件冷凍庫左側面は、上部は褐色になっているが、下部は、背面側が三分の二くらいの高さから黒く煤けていること、本件冷凍庫右側面は、上部に褐色の部分があるが、前面に近い縦半分は塗装が残存しており、背面に近い縦半分が黒く煤けていること、本件冷凍庫上扉は、左側半分が上向きに折れ曲った形で変形し、上面は、左右の三分の一程度がそれぞれ褐色になっていること、本件冷凍庫内部の本件ウレタン材は、すべて燃焼し黒くなっていること、本件冷凍庫内部は、上部四分の一程度は黒く煤けているが、内部のほとんどは塗装を維持していることが認められる。

(二) 以上によれば、鋼鉄製で本来外部からの火で燃える蓋然性の低い本件冷凍庫それ自体が焼損していることが明らかである。もっとも、本件ウレタン材は、可燃性であるから、これが本件冷凍庫の外部からの火により延焼した可能性はないとはいえない。

3  本件板壁の焼損状況

(一) 本件建物への最初の着火箇所は、本件冷凍庫置場裏側の板壁部分であることは当事者間に争いがない。そして、甲三、九、乙六及び七、八三の一ないし二七、八七、九〇、九一、九七の一ないし三、九八の一及び二、九九の一及び二、一〇〇の一及び二、一〇二ないし一〇四、一〇八、一〇九の一及び二、一一〇ないし一一二並びに弁論の全趣旨によると、本件板壁の焼損状況について、本件冷凍庫置場裏側の本件板壁の腰板部分が他の部分よりも焼損の程度が大きく、貫板で残存しているものを下からそれぞれ、別紙図面のとおり、貫板①、②のように番号を付すと、本件冷凍庫の背部の中心部分は幅六〇センチメートルにわたって腰板が焼失しており、その奥の貫板①、②、③は、燃え残っているもののいずれも黒く炭化が進んでいること、貫板④は、前貫板が本件冷凍庫の幅にわたって完全に焼失し、貫板⑤、⑥にいたっては、後貫板まで焼失しており、後壁板を通じて、食器戸棚で接する厨房へ燃え抜けが生じていること、間柱は、本件冷凍庫裏側の二本が冷凍庫の上部二〇センチメートル程度から上の部分が焼失していることが認められる。

(二) 以上によれば、本件冷凍庫の設置場所とその裏側に当たる本件板壁の焼損の位置が対応する関係にあること及びその部分が他の箇所に比べて焼損の程度が大きいことが明らかである。もっとも、右のような焼損状況を示したとしても、なお、本件冷凍庫の内部からの発火ではなく、その背後に位置する箇所から人為的要因で発火した可能性が全くないとはいえない。

4  本件冷凍庫のサーモスタットの可燃部の焼損状況

(一) 甲一一の二、一三ないし一六、乙四によれば、本件冷凍庫は、正面パネル左下部に位置するサーモエスカッション周辺部分、特にサーモスタットと警告サーモ部分が激しく焼損していること、本件冷凍庫内部の同じ制御・電装室内にあってサーモスタット部の背後に位置する始動リレー、過負荷リレーの焼損状況はより軽微であることが認められる。

(二) 以上によれば、本件冷凍庫の背面に近い、始動リレー、過負荷リレーの焼損状況よりも、背面からより遠い本件サーモスタットの焼損状況が激しいことが明らかである。このことは、本件冷凍庫背面の外部からの火により、本件冷凍庫が延焼、焼損したという経過でないこと、すなわち、冷凍庫の内部からの火により焼損が広がっていったことを推認させるものである。

5  本件冷凍庫から発火すること及び本件板壁に着火する可能性

(一) 鈴木鑑定意見書(甲一一の二)によれば、本件発火原因として最も蓋然性が高いのは、本件サーモスタット部品のトラッキングによる発火であること、本件サーモスタット部の発火から、背面の本件板壁に着火した本件冷凍庫内部の燃焼経路は、本件サーモスタットから発生した火災が、ポリエチレン製のカバーフィルムに燃え移り、サーモエスカッション部内の可燃物に延焼し、鋼板接合部のホットメルトに達して、これを加熱し溶融した第一段階、加熱されて溶融したホットメルトが流動性の燃料として、サーモエスカッション部に降りかかり、火勢を一層激しくすると同時に、ホットメルトが溶融、滴下した後の鋼板接合部に生じた隙間に露出している本件ウレタン材に着火した第二段階を経て、本件ウレタン材の着火部位から発した火災が、本件冷凍庫の周囲を取り巻く本件ウレタン材に燃え広がりながら上端に達し、本件冷凍庫上辺部の扉パッキング及び縁枠等を焼失させた後、焼失跡に開いた幅約二センチメートルの間隙から外部に向けて噴出したこと、そして、本件冷凍庫背面で、床面から約八〇センチメートルの高さの本件上扉部分(別紙図面のB部分)に生じた間隙から噴出した火炎が、本件冷凍庫の背後7.3ないし一二センチメートルに対向して位置する本件板壁に着火、延焼し燃え上がったという推認が成り立つことが認められる。

(二) 鈴木鑑定意見書(甲一一の二)は、トラッキング発生に関する科学的知見(これは、乙六五によっても認められる。)を前提とした上、消防調書(甲三)、警察調書(甲九)に基づく本件板壁の焼損状況、サーモスタット部品の焼損状況、検証調書に基づく本件冷凍庫の外観を根拠資料として、(一)のとおり推論するものであり、その推論及び判断の過程に不合理な点があるとは認められない。

なお、本件冷凍庫の焼損状況について、鈴木鑑定意見書(甲一一の二)は、本件火災直後の消防調書(甲三)、警察調書(甲九)又は乙一二の一五ないし二二ではなく、本件火災の約四年後に実施された検証調書をもとにしている。四年間の保管状況が必ずしも明らかではないから、検証調書が本件火災直後の本件冷凍庫の状況を正確に反映していない可能性があることは否定できないが、検証調書に基づく鈴木鑑定意見書(甲一一の二)の推論部分を取り除いたとしても、本件火災が本件冷凍庫が原因であるとの結論は変わらないとみることができ、鈴木鑑定意見書(甲一一の二)の推論過程は基本的に問題はないということができる。

(三) 被告の反証について

(1) 被告の反証の枠組みは、①本件建物への着火箇所が、本件板壁であるとしても、本件冷凍庫上部に該当する別紙図面のB部分ではなく、本件冷凍庫背面の床付近である別紙図面のA部分であることを前提とし、②この前提に基づいて本件冷凍庫には、A部分に着火するような火が噴出する可能性がないということである。

(2) そこで、まず、本件建物への着火箇所に関する点(①)について検討する。

(ア) 永瀬鑑定意見書(乙一八)及び永瀬証言が、鈴木鑑定意見書(甲一一の二)を批判する主要な点は、本件冷凍庫と本件板壁との間の狭い隙間では、着火点から火が下に燃え広がる現象(以下「燃え下がり」という。)が生じないこと、別紙図面の貫板①ないし③の炭化の度合及び亀甲の大きさから、本件火災では、燃え上がりが専らであったとみられるということである。

しかし、乙七二によれば、火災に関する一般的知見として、燃え下がりが常に生じないということはいえないし、須川鑑定意見書(乙九三の一及び二)も燃え下がり自体はあり得ることは認めているところである。また、乙七二によれば、火災の方向性を判断する方法として、炭化度合による方法もあり、木材の炭化の度合は、材質によっても異なるため、右判断方法を採る前提として、各木材の材質が同一であることが必要であることが認められるが、別紙図面の貫板①ないし③の材質がすべて同じものであったか否かは不明である。本件板壁と本件冷凍庫との隙間は約7.3センチメートルあり、落下物が入り込めないほど狭い空間ではないから、本件冷凍庫から発生して天井まで達した火が何らかの原因で落下して、貫板①の付近に燃え移り、貫板①ないし③の部分では、弱い火が長時間くすぶっていたため、炭化が他の部分よりも進んだということも十分考えられる。

永瀬鑑定意見書(乙一八)は、燃え下がりが起こるような空気の流れがないというが、このことから、下方への延焼が生じにくいことはいえるとしても、燃え下がりを一切否定することはできないように思われる。かえって、乙一二の八、八三の一〇(警察調書(甲九)写真五五)、八三の一一(消防調書(甲三)写真七)、八三の一二(警察調書(甲九)写真五四)、八三の一四(警察調書(甲九)写真五二)、八三の一五(消防調書(甲三)写真九)によれば、本件板壁の焼損状況を全体的に見ると、本件冷凍庫上扉部分より上方の燃え方が激しく、本件冷凍庫背面の中央部分に対応する部分で、厨房側への燃え抜けが生じており、その部分における焼損状況が著しいことが認められる。このような本件板壁全体の焼損状況は、床面に近いA付近で燃焼を開始したと考えるより、B付近で着火したと考える方が合理的であると考えられる。

(イ) 結局、永瀬鑑定意見書(乙一八)は、本件板壁の焼損状況については、A付近で着火した火が燃え上がったという説明も可能であり、一般的な火災に関する知見に合致するというものにすぎず、A付近に着火したのでなければ、本件板壁の焼損状況について合理的な説明が不可能であるということまで論証しているものとはいえないのである。

(ウ) 次に、須川鑑定意見書(乙九三の一、二)について、第一に、貫板①ないし③の燃焼状況により、燃焼順序を考察している点については、永瀬鑑定意見書(乙一八)と同様の問題がある。

第二に、須川鑑定意見書(乙九三の一及び二)は、本件板壁全体の焼損状況は台形を示しており、台形の下辺部分の両端に床面を底辺とする三角形の燃え方が残っているが、燃え下がりが生じたとすると、右のような三角形の燃え方ではなく、逆三角形の燃え方が残るはずであるから、本件板壁は、下方からの火によって焼損したものであるという。しかし、そもそも、本件板壁に、須川鑑定が模式化するような三角形の燃え方が残っているといえるかも必ずしも明らかではない上、本件上扉部分に位置的に対応する関係にある本件板壁から燃え下がった火が、本件板壁の下端まで達して、両端に燃え広がった結果、三角形の燃え方が残ったことも十分考えられるから、須川鑑定が主張するような三角形の燃え方が残っていたとしても不合理ではない。むしろ、本件板壁全体の焼損状況を見ると、本件上扉部分に位置的に対応する関係にある本件板壁部分から上方及び横方向に向かって延焼拡大していっていると認められるから、乙九三の一及び二によっても、本件冷凍庫の下方部分からの燃え上がりでなければ本件板壁の焼損状況を説明できないとまではいえない。

第三に、須川鑑定意見書(乙九三の一及び二)は、本件冷凍庫内部で発生した火が、本件冷凍庫上扉付近で本件板壁に着火したとすると、本件建物の天井が燃え抜け、屋根まで焼失しているはずであるというが、警察調書(甲九)、消防調書(甲三)によれば、本件冷凍庫置場の上方の天井は焼失しており、二階の便所にも火が及んでいることが認められるのであるから、立論の前提を欠くように思われる。

(エ) なお、被告は、本件板壁への着火箇所がB付近であるとすると、その斜め直ぐ上方に位置する貫板⑦が焼け残っていることを説明できないと主張する。

しかし、貫板⑦は、厨房側の貫板であり、本件冷凍庫置場側の貫板よりも本件冷凍庫から遠い位置にあることから、本件冷凍庫置場側の貫板と比較するとその焼損程度が低いことがあったとしても不合理とはいえない。

(オ) 以上によれば、本件冷凍庫上扉部分の間隙からの発火が腰板に着火したものと推認することが、物理的又は科学的にみて不合理であるとは認めることはできない。

(3) 本件冷凍庫内部の発火原因に関する点((1)②)について検討する。

(ア) 被告は、本件サーモスタットは、耐トラッキング性に優れ、電気的スパークにさらされても容易にグラファイト化することはなく、外部からの火炎によって一旦燃焼を開始しても、その火炎が継続しない限り、自己の燃焼エネルギーでは燃焼を継続せず、消火してしまう性質である自己消火性に優れているとして、本件サーモスタットのトラッキングによる発火を否定する。

(イ) 確かに、実験結果報告書(乙六二)によれば、本件サーモスタットは、耐トラッキング性に優れていること、本件サーモスタットに使用されているポリエステル樹脂は、難燃性を有し、外部からの火炎が継続しない限り、自己の燃焼エネルギーでは燃焼を継続せず、消火してしまう自己消火性があることが認められる。

ところで、本件冷凍庫と同型式の冷凍庫に用いられる部品を用いて被告が行う実験により、本件火災の原因が本件冷凍庫でないことを立証するためには、右実験に使用される部品は、本件冷凍庫と同様の品質、形状であることが不可欠であり、再現実験で設定される諸条件も本件火災発生時の状況と同一のものであることが不可欠である。しかし、右実験は、正常なサーモスタット、ポリエステル樹脂を使用しての実験であり、本件冷凍庫に使用された当該部品が正常の品質を有していたか否かは不明であるから、正常なサーモスタット一般にトラッキング耐性があり、ポリエステル樹脂が難燃性を有するとしても、右実験結果により、本件サーモスタットにトラッキングが生じることがあり、これにより発火することがあるという推認を覆すことはできない。

(ウ) 被告は、鈴木鑑定意見書(甲一一の二)が、サーモスタットにおけるトラッキングの発生する根拠として、サーモスタットが開閉動作をする都度、内部にアーク放電に伴うオゾンガスを発生させ、その高密度のオゾンガスが、サーモスタットを覆うポリエチレン性のカバーフィルム内に滞留することを挙げている点について、本件カバーフィルムには通気孔が設けられており、密閉構造にはなっていない旨主張する。

確かに、乙七六の一及び二、七七によれば、本件冷凍庫に使用されるポリエチレン性の透明な袋には、通気用の穴が開けられていることが認められる。しかし、乙二一の一及び二によれば、右袋が実際に使用された状況では、本件サーモスタット部品に接続されている導線に沿って穴が開けられているが、カバーフィルム全体がサーモスタット部品に密着していて隙間がないわけではなく、カバーフィルムと本件サーモスタットとの間には、気体が滞留し得る空間が存在し、いわばほぼ密閉構造であることには変わりないから、この点をとらえて、鈴木鑑定意見書(甲一一の二)を排斥することは相当でない。

(エ) 本件ウレタン材は、可燃物であり、これが熱を受ければ燃焼することについては争いがないところ、乙八一及び八六によれば、本件冷凍庫と同型式の冷凍庫は、製造過程において、硬質ウレタンフォームがきちんと充填され、隙間が生じない仕組みになっており、金属の内部に充填され密閉された状態のウレタン材は、下方から炎を受けても下部の部分的な焼損にとどまることが認められる。

しかし、(イ)で述べたのと同様に、乙八一及び八六により、本件冷凍庫の発火が否定されるためには、本件ウレタン材が隙間なく充填されていたことが前提となる。しかし、本件ウレタン材が本件冷凍庫製造時から隙間なく充填されていたか否かは不明であるし、経年変化により本件ウレタン材がどのような状態になっていたかも不明である。

この点、被告は、原告公造が本件冷凍庫の機能等について本件火災前に何らの異常を感じていなかったことから、本件ウレタン材に隙間は生じていなかったと主張するが、どの程度の隙間が生じれば冷凍機能等の本件冷凍庫の機能に影響を及ぼすものか、使用者が異常を感じるものか等は不明であるから、右事実から直ちに本件ウレタン材に隙間が生じていなかったものと推認することはできない。

そうすると、結局、右実験は本件冷凍庫が本件火災の発生源であることの推認を覆すための前提を欠くものといわざるを得ない。

(オ) 被告は、外箱の材質である鉄の溶融点は摂氏一五三〇度であるが、内箱の材質であるアルミニウムの溶融点は摂氏659.8度であり、アルミニウムの方が鉄よりも溶融点が半分程度と低いので、本件冷凍庫内部で発生した火が外側へ噴出した場合には、内箱も当然被熱により変形しているはずであるのに、本件冷凍庫の内箱の塗装がほとんどはげることなく残存していることの説明がつかないと主張する。

しかし、原告公造の本人尋問の結果によれば、本件火災当時、本件冷凍庫内部には、相当量の食品が冷凍保存されていたことが認められるから、本件冷凍庫内部に火が及んだとしても、まず本件冷凍庫内部の食品に熱を奪われ、内箱内部の温度上昇は外箱に比べて相対的に低かったものと推測されるし、甲二三の二によれば、鉄は、アルミニウムに比較して耐熱性、耐酸化性では劣り、摂氏五〇〇度程度の被熱により強度が急激に低下し、腐食又は崩壊しやすくなるのに対し、アルミニウムの場合には、その溶融点に達しない限りほとんど強度に影響がなく、腐食、崩壊等は生じないと認められるから、本件冷凍庫の内箱の塗装が残存していたとしても矛盾しない。したがって、右事実によっても、本件冷凍庫から発火した事実の推認を妨げるものとはいえない。

(カ) 被告は、電気部品ごとの焼損状況を比較検討すると、(二)のような本件冷凍庫内部の燃焼経路とは整合しないと主張するが、本件サーモスタット及び本件サーモスタットと同じ制御・電装室内の背面側に存する本件始動リレーと本件過負荷リレーの焼損状況からは、4で判示したとおり、むしろ、本件冷凍庫の内部から発火したことが推認される。

ところで、乙一九の一ないし三によれば、本件サーモスタットへの接続端子の残存状況は、サーモスタット側より、リード線側の方が燃焼が激しいことが認められるが、このことから直ちに、サーモスタットからの発火が否定されることにはならないと考える。なぜなら、乙一九の一ないし三の写真によれば、当該接続端子の端子カバー内の個別の部品は、サーモスタット側とリード線側とでは同一ではないことが認められ、この差が燃焼の程度の差にも影響するとも考えられるからである。さらに、被告は、サーモエスカッション部が発火したのであれば、サーモエスカッション部は均一に燃えたはずであると主張するが、各電気部品の素材の違いが燃焼程度に影響することも考えられるから、主張の前提を欠く。

(キ) 被告は、本件冷凍庫の各部品には、いずれも電気的痕が残っていないので、本件冷凍庫は発生源ではない旨主張する。

確かに、乙一七及び一一六によれば、本件冷凍庫のように電熱器具でない電気器具については、電気火災に至るような短絡、放電による漏電現象があれば必ず電気的痕を生ずるという理論があること、乙六一によれば、本件冷凍庫は本件火災当時通電状態にあったが、本件冷凍庫の各部品には、電気的な異常痕跡は発見されていないことが認められる。

しかし、他方で、甲二三の二、乙六五及び一一六によれば、短絡により発火した場合には、電気的痕跡である溶融痕が当該電気部品に残存するものの、当該電気部品が燃焼し続ければ、溶融痕が失われたり、残っていても火災後の残存物から溶融痕を発見することは困難であることが認められる。本件冷凍庫は、燃焼が進んでおり、電気部品が相当程度損傷している上、所轄警察署の科学捜査研究室による発火原因調査のために切り取られた一部の部品が喪失していること(乙一七の一)も併せ考慮すると、残存した各部品を見分するだけでは溶融痕が残存していなかったとみることは相当とはいえない。

(ク) 被告は、本件冷凍庫と同型式の冷凍庫を用いて、サーモエスカッション部分に人為的に着火した後、その炎が断熱材やその他の部品に燃え移るか否かを実験した結果に基づき、サーモエスカッション部全体に火は燃え広がるが、自然鎮火すること、鋼板接合部のホットメルトがほとんど焼失しても、実験においてウレタン材自体が、局部的に球形に焼損するにとどまったのは、燃焼に伴って排気がスムーズに行われず、燃焼により生じた空間にガスが充満して酸欠状態になるからであることが認められるから、本件ウレタン材は、本件冷凍庫背面に外部から強力な炎や熱を受け、広範囲に熱せられて上方から燃え始め、これが順次下方へと延焼していって焼損に至ったのであり、鈴木鑑定意見書(甲一一の二)が前提とするホットメルトを介して本件ウレタン材へ着火する過程はあり得ないと主張し、乙六三(実験結果報告書)を提出する。

しかし、これも、(イ)で判示したのと同様に、乙六三のような実験により、本件ウレタン材への着火があり得ないことを主張立証するためには、乙六三で用いられた本件冷凍庫と同型式の冷凍庫がウレタン材の充填状況、鋼板接合部のホットメルトの状況等において本件冷凍庫の状態と同一の状態にあったことが必要となるが、乙六三の実験ではこのような前提が確保されたものではない。したがって、乙六三によっても、本件冷凍庫が発火した事実の推認を妨げることにはならない。

6  統計からの考察

(一) 甲一八ないし二二によれば、東京消防庁が把握している東京都内における火災のうち、平成元年から平成八年までの間でみると、電気設備機器等による火災は、年間八七九件(平成四年)から、九五〇件(同六年)までの間の件数で推移していること、このうち電気冷蔵庫による火災は、同時期でみると、平成元年一四件、同二年五件、同三年九件、同四年九件、同五年六件、同六年六件、同七年一二件、同八年八件であること、業務用冷凍庫が経年劣化のため、制御回路の端子間で火花放電等が起こり、基盤が絶縁劣化したための出火事例も報告されていること(甲一九)が認められる。

(二) 以上のような統計があるからといって、本件において直ちに本件冷凍庫から発火したものと推認することができないことはもちろんであるが、少なくとも、右の統計の示す事実は、本件冷凍庫から発火した可能性を肯定する方向に働くものと考えるべきであろう。

7  その他の原因について

(一) 火災原因判定書(甲二)によれば、出火原因として考えられるたばこについては、本件火災直後の実況見分において、たばこの吸い殻は発見されていないこと、原告らはたばこを吸わないし、客のたばこの吸い殻は水を入れた空き缶に入れていたことが、ガス器具については、同じく本件火災直後の実況見分時に、ガス器具の栓が閉まっていたことが、それぞれ認められる。したがって、本件火災原因判定書(甲二)では、これらが出火原因であることを否定しているのである。火災原因判定書は、火災の専門家である消防士が、本件火災直後に火災現場を見分し、現場の状況、目撃者等の証言、被害者の供述等の資料をもとに、火災原因を判定したものであるから、特段の事情のない限り、相当程度の証拠価値を認めてよいと考える。

ところで、本件火災原因判定書(甲二)には、本件冷凍庫には取り付けられていないコンプレッサーモーター起動用電解コンデンサーを本件冷凍庫内の第三の発火原因として挙げていること、本件冷凍庫の排熱口の位置を取り違えていること等の誤りがみられる。

しかし、右の誤りから、直ちに火災原因判定書全体の信用性が失われるものではないと解すべきである。なぜなら、火災原因判定書は、発火原因として三つの原因を挙げ、それぞれの可能性について検討を加えた結果、最終的には本件冷凍庫内部の発火原因は不明であるとの結論に達しているのである。したがって、右前提事実の誤りは、火災原因判定の結論には影響を及ぼしていないといえる。むしろ、火災原因判定書から酌み取るべきものは、本件火災の現場の状況に照らして、本件冷凍庫以外に発火の原因となるものを想定することができないという結論を示していることである。

(二) 被告は、本件火災は、原告らによる利得目的の放火によるものであると主張し、その間接事実として、原告らの複数の損害保険契約等の締結、四三〇〇万円の火災保険金等の取得、原告らの本件火災発生前の行動の不自然さ等を主張する。

(三)(1) 原告公造が本件建物等について三件の損害保険契約、共済契約を締結しており、本件火災により合計四三〇〇万円相当の火災保険金等を受け取っていることは、第三・五に判示したとおりである。

しかし、原告らが、保険金詐取を目的として放火し本件火災を発生させたものとは考えがたい。すなわち、原告公造が損害保険契約、共済契約を締結したのは、いずれも本件火災から五年前の昭和六一年であること、原告らが経済的に苦しい状態にあった等の刑法犯を犯してまで金銭を取得する必要のある事情が窺われないこと、容易に火元となる箇所でない冷凍庫付近を火災の発生源として選択し放火することは不合理と思われること等の事情のみられる本件においては、原告らが保険金を利得する目的で本件火災を発生させたと考えることは、特段の事情の認められない限り、経験則に反するといわなければならない。

さらに、原告らが、本件冷凍庫の欠陥に基づく損害賠償請求をするために放火したものとみることも困難である。すなわち、ストーブなどの電熱機器とは異なり、およそ一般的に燃焼するとは思えない本件冷凍庫が発火したと主張しても、直ちに製造会社たる被告が原告らの損害賠償請求に応じる可能性は低いと考えられること、任意の交渉に応じない場合に備えて、損害賠償請求訴訟を提起するとしても、原告らに技術的な知識があるわけではなく、訴訟代理人の協力が得られたとしても、勝訴の見込みは予測がつかないこと、一方で、訴訟費用をはじめ弁護士費用等の諸費用がかかり、判決に至るまでに時間も要するであろうことは容易に予測できること等の事情のみられる本件においては、原告らが損害賠償金を利得する目的で本件火災を発生させたと考えることは、特段の事情の認められない限り、経験則に反するといわなければならない。

(2) 被告は、原告公造及び同丈子の本件火災前の行動について、本件火災の目撃者の供述をもとに、火災が本件建物下屋に噴出していた時刻を割り出し、永瀬証言に基づき本件冷凍庫置場から、右噴出箇所へ延焼する時間を算出し、鈴木鑑定意見書(甲一一の二)に基づいて本件冷凍庫内部の燃焼経路とそれに要する時間を算出すると、原告らの外出した時刻には、本件冷凍庫から発生した火は、本件板壁に着火しているはずであるから、原告らは、外出時には、下屋付近で異臭などの何らかの異常を感知していたはずであるのに、何の異常も感知していない旨供述しているのは、極めて不自然であると主張する。

しかし、右主張に含まれる推論過程の基礎となる事実は、明らかとはいえず、原告らが外出してから約一〇分後に本件火災の発生が認知されていることを前提とすると、原告らが放火した後で、本件建物を離れたとしても時間的には不可能ではないということができるというにすぎないから、右主張は、原告らの放火を推認させる間接事実とは到底いえない。

(3) 永瀬証言によると、永瀬は、本件火災の原因が人為的なものである可能性があると考えていることが認められるが、憶測の域を出るものではない。

(四) 以上によれば、本件火災が、原告らによる放火であることを認めるに足りる証拠はない。また、本件全証拠によっても、本件火災がその他の原因によることを認めることはできない。

8  小括

(一)  以上によれば、本件火災は、本件冷凍庫を発生源とするものであることを推認することができる。

(二)  右のように判断することは、製造者である被告にとって、一見厳しいもののように感じられるかもしれない。

しかしながら、民事訴訟における立証は、経験則に照らして全証拠を総合考慮して行う歴史的証明であって、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではない。そして、歴史的証明は、裁判官が要証事実について高度の蓋然性の認識を形成し、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得ることで足りるのである。

(三)  本件も、右(二)のような意味で、(一)のように認定すべきものなのである。すなわち、本件では、①本件冷凍庫は、鋼鉄製であり、本来外部からの火で燃える蓋然性の低いものであるのに冷凍庫それ自体が焼損していること、②本件冷凍庫が置かれた場所とその裏側に当たる本件板壁の焼損の位置が対応する関係にあり、かつ、右板壁の部分が他の箇所に比べて焼損の程度が著しいこと、③本件冷凍庫内部の背面に近い始動リレー、過負荷リレーの焼損状況よりも右の背面からより遠い本件サーモスタットの焼損状況が激しいこと、すなわち、冷凍庫の内側からの火により焼損が広がっていったとみられること、④本件冷凍庫から発火すること及び本件板壁に着火することについて論理的可能性があること、⑤本件冷凍庫と冷却機能という点で類似する冷蔵庫からの発火による火災が毎年複数件みられること、⑥本件火災にはその他の原因は見当たらないこと等の間接事実が認められるのであるから、本件火災は、本件冷凍庫を発生源とするものであることを推認することができるのである。そして、本件では、右推認を覆すに足りる反証がされていないのであるから、(一)の事実を認定するほかないのである。

(四)  原告公造が、本件冷凍庫を本件レストランの営業のために食材の冷凍保存の用途で使用していたことは、第三・二・1に判示したとおりであり、これは冷凍庫本来の使用目的に従った使用方法であるところ、それにもかかわらず、本件冷凍庫が発火し、本件火災の発生源となったものであるから、本件冷凍庫は、本件火災当時、通常有すべき安全性を欠いていたというべきであり、この意味で欠陥があったものといわざるを得ない。

(五)  消費者が、本来の使用目的に従って製造物を使用し、事故が発生した場合において、その時点で製造物に欠陥が存在したときは、特段の事情の認められない限り、製造物が流通に置かれた時点において、欠陥が存在していたものと推認することが相当である。

本件においても、本件冷凍庫は、食材の冷凍保存という本来の使用目的に従って使用されていたにもかかわらず、発火したものであり、特段の事情も認めることはできないから、被告により本件冷凍庫が流通に置かれた時点において、欠陥が存在していたものと推認すべきであることになる。

二  争点二(被告の過失の有無)について

1  被告の安全性確保義務

現代の社会生活は、他人が製造し、流通に置いた製品を購入し使用することによって成立している。規格化された工業製品の場合、流通の過程において販売会社や小売店は個々の製品の安全性を逐一確認した上で販売することは通常予定されておらず、これを購入する消費者においても、個々の製品の安全性の有無を判断すべき知識や技術を有してはいない。このような製品の流通は、製造者が製品を安全なものとして流通に置いたことに対する信頼により支えられているということができる。さらに、製品の大量生産、大量消費のシステムにおいては、一度欠陥のある製品が製造され、流通に置かれると、少なからぬ規模の深刻な被害を発生させる危険性があるところ、欠陥製品から生ずる消費者の生命、身体、財産に対する侵害を防止できるかどうかは、製品を流通に置くまでの製造者の調査、研究等にかかわっており、被害発生を防止する措置は、高度な技術、専門的知識を用いて製品を製造した製造者にしか期待することができない。

したがって、製品の製造者は、製品を設計、製造し流通に置く過程で、製品の危険な性状により消費者が損害を被ることのないように、製品の安全性を確保すべき高度の注意義務(以下「安全性確保義務」という。)を負い、製造者が右義務に違反して安全性に欠ける製品を製造し流通に置き、これにより被害者が損害を被った場合には、製造者は当該消費者に対し、その被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものと解すべきである。

2  被告の過失の有無

(一) 被告は、1で述べたとおり、安全な製品として本件冷凍庫を設計、製造すべき安全性確保義務があるところ、右義務に違反した過失があるといえるかについて検討する。

(二) ところで、安全性確保義務違反が認められるためには、製造者において被害発生につき予見可能であることが必要である。

専門的知識、高度な技術を有して製品を製造している製造者は、自己の製造する製品の物理的、科学的性質等を最も良く理解しているのが通常であって、製品の欠陥から消費者の生命、身体、財産に対し、通常生じうる損害を予見しうる知識を有しているといえる。このことに、損害の公平な分担という不法行為法の理念を併せ考慮すると、製造者は、製品を流通に置く前に、可能な限りその安全性を確保するための調査及び研究を尽くすべきであるから、消費者が右製品を通常の方法で使用していたにもかかわらず発生した損害について、調査、研究を尽くしても予見できなかったという特段の事情を立証しない限り、右損害発生についても予見可能であったと推認するのが相当である。

(三)  製造者が予見可能な損害の発生を回避すべく課される安全性確保義務の具体的内容は、消費者の生命、身体、財産の安全確保の重要性と、調査、研究により課される製造者の負担等を総合考慮して決定されるべきであり、当該製品の性質、その有用性、通常の使用方法はどのようなものか、使用期間はどの程度を見込むか、製品の消費者は誰か、消費者における危険発生防止の可能性、予見される損害発生の蓋然性、損害に内容、当該製品が有する有用性、製品の安全対策の技術的実現可能性、安全対策が製品の有用性に与える影響等の諸事情に基礎付けられる当該製品の通常有すべき安全性を確保すべき義務と解するのが相当である。そして、安全性確保義務の性質上、流通に置かれた時点において、当該製品について欠陥の存在が立証されれば、製造者に製品を設計、製造し流通に置くに際して、安全性確保義務違反の過失があったものと推定するのが相当である。

(四)  前記一・8において判示したとおり、本件冷凍庫には、流通に置かれた時点において欠陥が存在していたものと認めることができる。そして、本件において、製造者たる被告が、調査、研究を尽くしてもなお本件火災による損害の発生を予見できなかったと認めるべき特段の事情は存しないから、本件火災による損害の発生について被告は予見可能であったと認められる。

そして、前記(三)で判示したとおり、安全性確保義務の性質上、本件冷凍庫について流通に置かれた時点において欠陥が認められる以上、製造者たる被告が本件冷凍庫を流通過程に置くに際して、安全性確保義務の過失があったものと推定することができ、右推定を覆すに足りる特段の事情は認められない。

(五)  以上によれば、被告には、本件冷凍庫を流通に置くに際して、安全性確保義務に違反した過失が認められる。したがって、被告は、原告らが、本件火災により被った損害を賠償すべき責任がある。

3  補論

(一) 本件では、本件冷凍庫の欠陥の有無を認定するに当たり、原告らが、本件冷凍庫内部の発火箇所、発火の機序、発火の原因となった本件冷凍庫の欠陥(以下「製品の具体的欠陥等」という。)について主張立証責任を負うか否か問題となったので、付言しておく。

(二) 1で述べたとおり、工業製品の製造に要する技術は高度かつ専門的であり、製造過程も複雑化されているが、一般的消費者である利用者は、それらに関する知識を有していないのが通常である。このような場合に、消費者たる原告側が、本件のような訴訟において、本件冷凍庫が本件火災の発生源である旨の主張立証をするだけでなく、その具体的欠陥等を特定した上で、欠陥が生じた原因まで主張立証責任を負うとすることは、損害の公平な分担という不法行為法の理念に反するものであり、妥当でない、このことは、製品が完全に損壊し、欠陥を特定することができなくなった場合には、常に製造者が免責されることになってしまう事態を想定すれば明らかである。

したがって、消費者たる原告らは、製品の具体的な欠陥等については基本的に主張立証責任を負うものではないと解すべきである。もっとも、原告らが審理の対象を明示する趣旨で、右の点を主張し、これを立証することは、もとより許容されるものであり、それが可能である場合には、むしろ、そうした訴訟追行をしていくことが、民事訴訟法上当事者に課せられている信義則(民訴法二条)に照らし、望ましいものというべきである。

(三) そして、本件では、原告らは、本件冷凍庫の発火の原因がサーモスタット部品のトラッキングであること及びその燃焼経路等について主張し、この点に関して当事者双方において攻防が尽くされてきたという訴訟の経緯があり、これは前記のとおり、一定の評価をすることができる訴訟追行であったといえる。

三  争点三(原告らの損害の有無及びそれらの額)について

1  火災保険金等について

被告は、原告公造が本件建物の火災による焼失という同一事故から二重に損害保険金及び共済金(以下「保険金等」ともいう。)を受領していることについて、損害の填補という損害保険契約の趣旨に照らすと、保険価額を超過する部分が無効であり、不当利得であるから、その分を損害賠償額から控除すべき旨主張する。

そもそも第三者の不法行為による保険事故に対し、被害者たる被保険者が任意に加入している損害保険契約に基づいて支払われた保険金等は、既に払い込んだ保険料の対価たる性質を有し、右第三者が負担すべき損害賠償額から損益相殺として控除されるべき利益には当たらないが、保険金等を支払った保険者は、保険者の代位の制度により、その支払った保険金等の限度で第三者に対する損害賠償請求権を取得する結果、被保険者は、右保険金等の限度で第三者に対する損害賠償請求権を失い、第三者に対して請求することのできる賠償額が支払われた保険金等の額だけ減少することになる(最判昭和五〇年一月三一日民集二九巻一〇号六八頁参照)。そうすると、被告の負担すべき損害賠償額を算定するに当たっては、右保険金等を考慮することが必要となるが、原告らは、本件建物についての損害賠償請求はしていないので、本件建物を目的とする保険金等については、考慮する余地がないことになる(本件建物を目的とする保険金等が本件建物焼損の損害以外を填補することにならないかという問題もあるが、今後、重複保険として関係者間で調整されることも想定されるので、ここでは、右問題を消極に解した上で、損害算定をすることとする。)。しかし、後記2については、支払われた共済金について考慮する必要がある。

2  店舗内備品等及び家財道具等の損害

(一) 警察調書(甲九)及び消防調書(甲三)によれば、本件建物一階部分は本件冷凍庫置場を中心にその背後の厨房と、北側の下屋が焼損し、本件建物二階の居住部分は、便所以外は焼損していないものの、消火活動に伴う放水で水浸しとなったことが認められるから、本件火災により原告らに損害が生じたことは明らかであるが、個々の動産の購入額ないし当時の価額について、原告公造の本人尋問の結果によりこれを認めることは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)  ところで、動産の滅失による損害額は、購入時の代金額から経年を考慮して減額した価値ないし代替物の購入費用等をもって算定することが本来であるが、事柄の性質上、本件において、このような立証を要求することは相当でない。そうすると、本件は、動産の滅失という損害発生は認められるが、損害の性質上、その額の立証が極めて困難な場合(民訴法二四八条)に当たるというべきである。そこで、裁判所としては、相当な損害額を認定することとするが、本件火災後に福島農協は実損評価額として、店舗内備品等につき五一〇万円、家財道具等につき九四〇万円と査定していることが認められ(甲五七の二)、とりわけ後者は、損害保険における査定基準であるモデル家庭の標準的評価表の家財道具の価額に依拠したものである。したがって、右の額を基本としてよいと考えるが、一方で、右の査定は、保険金額(共済金額)の上限を考慮して行われたものであるから、当裁判所としては各損害額については、いずれも、福島農協の評価額の一割増しとすることが相当であると解する。そうすると、損害額は、店舗内備品等につき五六一万円、家財道具等につき一〇三四万円と評価するのが相当である。

(三) そして、第三・五・2に判示したとおり、原告公造は、福島農協から、動産特約共済金五〇〇万円を受領しているから、福島農協は、1・(二)でみたとおり、支払った共済金の限度で保険代位が生じ、原告公造は、この限度で損害賠償請求権を失っている(右共済金を控除することは、原告らの自認するところでもある。)。そうすると、店舗内備品等の損害額は、六一万円となる。

家財道具等についても、第三・五・2に判示したとおり、原告公造は、福島農協から共済金六四三万七五〇〇円を受領しているから、福島農協は、1・(二)でみたとおり、支払った共済金の限度で保険代位が生じ、原告らは、この限度で損害賠償請求権を失っている。そうすると、右家財道具等の損害額の内訳は、別紙家財道具等一覧表の評価額の割合に応じて、損害合計一〇三四万円を割り付けたものから、原告公造及び同丈子については受領した共済金六四三万七五〇〇円について各自その半額を控除した残額である(受領した共済金について、原告公造及び同丈子の損害額から各自その半額を控除することは、原告らが自認するところである。)から、原告公造につき四六万一〇四四円、同丈子について一四〇万九三五七円、同優子について二〇三万二〇九九円となる。

3  移転費用等

甲二五及び二六によれば、原告公造は、平成三年一〇月五日、新しい住居兼店舗として、現住所の建物を敷金三二万円、協力金一六万円、賃料月額一六万円との約定で賃借し、右同日、媒介業者に対し、仲介手数料として一〇万円を支払ったことが認められる。

右各金員のうち、賃貸人に対して支払った敷金は、賃貸借契約終了後に、借主たる原告公造の債務を控除した上で返還される約定で交付された金員であるから、本件火災に伴う損害として評価すべきではない。よって、移転費用等の損害は、協力金、仲介手数料の合計二六万円と認められる。

4  休業損害

甲一二及び二四によれば、本件火災の前年にあたる平成二年度の原告公造の所得金額が一一二万二五九九円、原告丈子の専従者給与額が一二〇万円であること、新店舗が開業したのは、平成三年一二月一二日であることが認められる。

したがって、本件火災の平成三年七月一日から新店舗開業までの平成三年一二月一二日までの一六五日間の休業損害としては、原告公造について五〇万円、同丈子について五五万円と評価すべきである。

5  慰謝料

(一)(1) 不法行為に伴って物的損害が生じた場合、被害者が右物的損害に伴って精神的な苦痛を感じることは一般的であると考えられるが、通常の物的損害は財産的損害として評価され、その損害賠償によって、被害者の精神的な苦痛も癒され、損害は填補されたと考えるべきである。したがって、物的損害が生じた場合において、財産上の経済的価値以外に考慮に値する主観的精神的価値が認められるような特別の事情が認められるときに限って、被害者は、財産的損害についての損害賠償のほかに慰謝料を請求することができると解すべきである。

(2) そこで、右特別の事情の有無について検討すると、本件火災により所有財産を失ったことについては、家財道具等の損害賠償により、レストラン経営を一旦止め、半年間、開業準備のために時間を費やしたことについては、休業損害等の賠償によりそれぞれ填補されているとみることができる。

しかしながら、写真、アルバム、先代の遺品、日記、卒業証書等の滅失については、これらが原告ら各自にとって想い出を偲ぶきっかけとなるものであり、財産上の経済的価値に評価し尽くされないものであることを考慮すると、原告らが、これらの物を本件火災により失ったことは、このことにより精神的損害を被ったといわなければならない。すなわち、想い出の品々の滅失は、原告らそれぞれに慰謝料を認めるべき特別な事情に当たるものである。

そして、その慰謝料額は、原告らそれぞれについて、事柄の性質上、いずれも六〇万円とするのが相当である。

(二) 原告ら夫婦が在宅していれば生命を失う危険があった旨の主張については、このような抽象的な可能性だけでは慰謝料を認めるべき精神的損害が生じたと認めることはできない。

(三) 原告らは、被告の交渉態度の不誠実さを理由に、慰謝料を請求する。

ところで、乙二三、二六の一及び二、三〇の一及び二、三八、五五の一及び二によれば、原告らと被告との間では、本件火災の約一か月後の平成三年八月六日から本件訴訟提起までの約三年四か月にわたって交渉が続けられてきたこと、原告公造が請求する損害賠償額が六〇〇〇万円から七一〇〇万円と本訴請求額に比較してもかなり高額であった上、本件冷凍庫が火災の原因であるか否かについては争いのある段階での交渉であること、被告も、交渉の初期の段階から、本件冷凍庫を調査させるよう再三にわたって申し入れており、本件冷凍庫が原因であると判明すれば、誠意をもって対応すると表明していたことが認められる。

訴訟提起前に製品の欠陥に起因する事故に基づく損害賠償請求がなされた場合の製造業者としては、可及的に被害者救済を図るという姿勢が望ましいといえるが、当該製造物の欠陥の存在につき一定の見通しができる程度の資料が収集できなければ、あるいは、そのような資料収集につき被害者側の協力を得ることができなければ、救済を図る方向での交渉をすることは困難であると解されるところ、本件における被告の交渉態度は、そのような観点からすると、特に責められるべき点はないということができ、原告らに対して精神的苦痛を与えた行為であると評価することはできない。

6  弁護士費用

本件事案が製造物責任を追及するものであること、その訴訟追行及び準備には、訴訟代理人において相当程度の専門性が求められ、時間を要するものであったものと推測されることに加えて、その審理経過、認容額等に照らすと、本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、原告公造につき七〇万円、同丈子につき四〇万円、同優子につき三〇万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上のとおり、原告らの請求は、原告公造について三一三万一〇四四円、同丈子について二九五万九三五七円、同優子について二九三万二〇九九円及びこれらに対する不法行為の日である平成三年七月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容することとし、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六一条及び六四条を、仮執行宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官片山憲一 裁判官日暮直子)

別紙店舗内備品等一覧表<省略>

別紙実財道具等一覧表<省略>

別紙図面<省略>

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